旬の特集
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文書作成日:2025/07/24

注目を集める年金制度改正法

2025年の通常国会で、年金制度改正法(正式名称:社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律)が成立し、公布されました。社会保障制度全般に関わる多くの改正点がありますが、その中から企業の実務に影響が大きい部分の概要を確認しましょう。

[ 1 ]
年金制度改正の全体像

 主な改正内容は、社会保険の加入対象の拡大、在職老齢年金制度の見直し、遺族厚生年金の見直し、厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げ、私的年金制度の見直し、将来の基礎年金の給付水準の底上げの6つから構成されています。その中でも、社会保険の加入対象の拡大、在職老齢年金制度の見直し、厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げは企業の実務に大きな影響があります。

[ 2 ]
社会保険の加入対象の拡大
 社会保険の加入対象の拡大は、a.賃金要件の撤廃、b.企業規模要件の撤廃、c.個人事業所の適用業種の拡大の3つに分かれています。
  1. 賃金要件の撤廃

     現在、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が51人以上の企業では、以下の3つの要件をすべて満たしたパートタイマー等が社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入することになっています。

    1. 週所定労働時間が20時間以上であること
    2. 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
    3. 学生でないこと

     これらの要件のうち、2の要件はいわゆる「年収106万円の壁」といわれているものです。今後、この賃金要件が撤廃されることになります。撤廃の時期は、法律の公布(2025年6月20日)から3年以内で、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて判断されます。なお、「最低賃金1,016円」とは、週20時間以上働くと、年額換算で約106万円となる額です。

  2. 企業規模要件の撤廃

     現在、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が50人以下の場合には、1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が、正社員の4分の3以上である場合に社会保険の被保険者となります(4分の3基準)。これに関し、4分の3基準を満たしていなくても、週所定労働時間が20 時間以上であること等の要件を満たした場合に、短時間労働者として加入する企業規模の基準が下表のとおり、約10年をかけて段階的に拡大されます。なお、最終的には企業規模要件は撤廃されます。

     企業規模 施行時期 
     51人以上  2024年10月(施行済)
     36人以上  2027年10月
     21人以上  2029年10月
     11人以上  2032年10月
     10人以下  2035年10月

     この企業規模要件の撤廃により、社会保険料の負担を重く感じ、社会保険に加入しない労働時間とする、いわゆる就業調整を行うパートタイマー等が出てくる可能性があります。そのため、特例的に・時限的に従業員の保険料負担を軽減する支援策が設けられています。

  3. 個人事業所の適用業種の拡大

     法人の事業所は従業員数や業種に関わらず、社会保険の適用事業所となります。これに対して、個人の事業所は、常時5人以上の従業員を雇用する場合であって、法律で定める17業種に該当した場合に、社会保険の適用事業所となります。
     2029年10月からは、この業種に係る要件が撤廃され、今まで適用事業所とはならなかった業種においても、常時5人以上の従業員を雇用する場合には適用事業所となります。ただし、2029年9月までに適用対象外となっている事業所は当分の間、適用事業所とはならないことも決まっています。

[ 3 ]
在職老齢年金制度の見直し

 在職老齢年金制度とは、年金を受給しながら働く高齢者について、一定額以上の賃金のある人は年金制度を支える側に回ってもらうという考え方に基づき、年金の支給額が調整される仕組みです。
 働き続けることを希望する高齢者が増えており、また企業においても人材確保等の観点から、引き続き高齢者を雇用していきたいという思いがあります。しかし、実際に働く高齢者においては、年金額が減らないように労働時間を調整する動きがみられることから、2026年4月より、厚生年金が支給停止となる基準額が、現在の月50万円から月62万円(いずれも2024年度の額)に引き上げられます。

[ 4 ]
厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げ
 厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げは、保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引上げを行い、一定以上の月収のある人について、賃金に応じた厚生年金保険保を負担することで、現役時代の賃金に見合った年金を受け取りやすくすることが目的とされています。
 具体的には、賃金が上昇傾向にあることを踏まえ、標準報酬月額の上限が、2027年9月に65万円から68万円、2028年9月に68万円から71万円、2029年9月に71万円から75万円と、段階的に引き上げられます。

 今回の年金制度改正における企業の実務に影響が大きな内容としては以上となりますが、実際にはこれら以外にも見直しが行われています。その内容については以下のリンク先の各資料を参照して頂ければと思います。

■参考リンク
厚生労働省「年金制度改正法が成立しました
厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について
厚生労働省「在職老齢年金制度の見直しについて
厚生労働省「厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについて

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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